ゆりの日常 苦痛な通勤時間
ゆりは家から電車で20分のところに勤めている。
その行き帰りの20分は苦痛でしかない。
混雑する時間帯のため、ほとんど座ることが出来ないし、
特に朝は軽くギュウギュウ詰め状態で、息苦しくなってしまう。
その日の朝も、いつもの電車に乗り込むと、席は埋まっていて、
吊革につかまり立っていた。
ふと目の前におじいちゃんが座っていることに気がついた。
皆が携帯をいじる中、おじいちゃんはポータブルDVDプレイヤーを膝の上に置き、動画を鑑賞していた。
しっかりイヤホンもつけている。
ポータブルとは言っても、もちろん携帯とは比べ物にならないほど大きい。
おじいちゃんの膝いっぱいを占領する大きさだ。
たぶんファンなのだろう、女性演歌歌手のコンサートを見ていた。
何駅か進むとDVDが一通り終わったのだろう、何やらプレイヤーのボタンをカチカチしだした。
そのカチカチの音が電車のガタンゴトンに負けないくらい大きい。
おじいちゃんは手慣れたように操作し、なんとまた最初からコンサートを鑑賞し始めた。
また少し経ったころ、おじいちゃんのほうからカチカチと聞こえてくる。
早送り、再生少し鑑賞、また早送り、また再生少し鑑賞、を繰り返している。
どうやら、目的の駅に着くまでにはもう一度見終える時間がないと気づいたのだろう、
自分的ハイライトだけを見ようとしているのだ。
自分的ハイライト以外は早送り。
結局ゆりのほうが先に電車を降りたため、
どうやっておじいちゃんがポータブルDVDプレイヤーを持ち運んでいるのかは謎のままになってしまった。
人生の大先輩にこんなことを言っては失礼かもしれないが、
とてもかわいい光景だった。
せわしない通勤アワーの電車でなんだかほっこりした気持ちになった。
文章 ゆり
編集 あり ゆり
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